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四十にして惑わず、という言葉がある。男の厄年
(注)は四十二だ。別にこれらに影響されなくても、四十という年齢は、男の人生にとって、幸、不幸を決める節目であると思えてならない。
(中略)
四十代の男が、もし不幸であるとすれば、それは自分が意図じてきたことが、四十代に入っても実現しないからである。世間でいう、成功者不成功者の分類とはちがう。職業や地位がどうあろうと、幸、不幸には関係ない。自分がしたいと思ってきたことを、満足いく状態でしつづける立場をもてた男は、世間の評判にかかわりなく幸福であるはずだ。
家庭の中で自分の意志の有無が大きく影響する主婦とちがって、社会的人間である男の場合は、思うことをできる立場につくことは、大変に重要な問題になかってくる。これがもてない男は、趣味や副業に熱心になる人が多いが、それでもかまわない。週末だけの幸福も、立派な幸福である。
困るのは、好きで選んだ道で、このような立場をもてなかった男である。この種の男の四十代は、それこそ厄代である。知的職業人にこの種の不幸な人が多いのは、彼らに、仕事は自分の意志で選んだという自負があり、これがまた不幸に輪をかけるからである。
(塩野七生『男たちへフツウの男をフツウでない男にするための54章』文藝春秋による)
(注)厄年・災いにあいやすい年齢