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論理は、いわゆる理系人間の利点、アドバンテージだと言えるのかもしれませんが、新製品の発売を決定する社内会議で、エンジニアが論理的にポイントをおさえた完璧なプレゼンをしたとしても、会議の参加者の心を動かすことができず、製品化のゴーサイン
(注1)が出なかった、などという話がよくあります。
人間はもともと恐怖や喜びなどの感情によって生き残りを図ってきた動物なので、感情的にしっくり来ないものを直感的に避けてしまう傾向があるのです。そのため、エンジニアのプレゼンに対して、「話の筋も通っているし、なるほどもっともだ」と頭では理解、納得しても、もう一方に「コレ、なんとなく買う気にならないんだよね」という心の声があると、多くの人は最後にはそちらを優先してしまいます。
しかし、この「なんとなく」こそ、まさに感情と論理の狭間にあるもので、それこそが会議で究明しなくてはならないものであるはずです。
たとえば、「なんとなく」の正体が、「試作品の色が気にくわなかった」だけだと分かれば、代わりの色を探せばよいだけの話で、せっかくの企画を没にしてはもったいないどころではありません。一方で、その製品は子供が乱暴に扱う可能性が高いため、会議の参加者が無意識下で「それにしてはヤワだなあ」ということを感じていたのなら、使用素材や設計をじっくり見直す必要があるはずです。
(竹内薫『文系のための理数センス養成講座』新潮社による)
(注1) ゴーサイン: 計画や企画の実行の許可を表す指示
(注2) ヤワ: 弱々しいこと