以下は、元アナウンサーがコミュニケーションのあり方について書いた文章である。
元アナウンサーなのでよく「失敗しないコミュニケーション術を教えてください」と訊きかれます。失敗しないコミュニケーションとはなんでしょう。ニュースキャスターのように滑らかに喋しゃべれるようになること? ひな壇だんトークの真似事(注1)が上手になること? 私はどちらも違うと思います。
そもそも、コミュニケーションの目的はなんでしょうか。誰からも嫌われないこと? 注目されること? ほめられること? 賢そうに見せること? 相手を思い通りに動かすこと? なるほど、どれも就活しゅうかつの面接や仕事のプレゼンでは役に立ちそうですね。でも、それ(41)人との関わりではありません。
私は、今でも人と関わることが苦手です。もっと人の気持ちをわかるようになりたいと悔いることばかりです。でも、みんな脳のうみそが違うからどうしたってわからないのです。 それなりに考えて言った言葉に対して予期せぬ反応が返ってくることも珍しくありません。迂闊うかつなミスもあります。相手の心のコンディションにもよります。人とのやりとりは、しょっちゅう(42)
相手の反応が予測と違った時は、関係を変化させる好機でもあります。ずれの修正の過程で以前より親しくなることも。誤解を(43)長い話し合いが必要になるでしょう。それにちゃんと取り組むのはなかなか胆力たんりょくがいります。このめんどくさいやりとりこそが、人との関わりの醍醐味だいごみです。摩擦を回避するために「失敗しない会話」をマスターしようとするのは、むしろコミュニケーションからの(44)。
そつなく(注2)話す人が増えるよりも、めんどくさくても時間がかかっても、なんとかして伝えられないかと悩む人、つまり諦あきらめが悪く懲こりない人が増える方が、世の中は寛容で豊かになるでしょう。失敗万歳です。
(注1)ひな壇だんトークの真似事:テレビに出るタレントのように、テンポよく話すこと
(注2)そつなく:要領よく